3. 院内感染について パートI

監修: 金光敬二先生
(東北大学大学院医学系研究科病態制御学講座分子診断学分野講師
東北大学病院検査部感染管理室室長)
ところで、市中で感染を引き起こす強力な病原体でなくても、抵抗力の落ちた入院患者さんでは、病気ではない普通の人にとっては何のことはないような菌、普通の人には悪さをしないような菌で感染を引き起こし、不幸な結果に到ることもあります。
その代表とも言えるものが、MRSA*2VRE*3緑膿菌*4セラチア*5などです。

これらは一応病原体なので注意は必要ですが、これらの菌の病原性は低いと考えられ、一般の人々に大きな危険をもたらすものではありません。しかし、入院している易感染患者のみなさんの場合はどうでしょうか?

既に述べたように、入院患者のみなさんは理由の如何によらず、体力もそして抵抗力も落ちていると考えられます。従って、このような病原性が低い、あまり悪さをしないと言われる病原体にも抵抗しきれずに、健康な普通の人に比べて、感染が起こりやすいと思われる訳です。

入院する程ではないにしろ、おなかをこわしているとき、また食欲もなく、体力が落ちていると感じているときなどはカゼもひきやすい、と言う心当たりをどなたも持たれた経験があると思います。

これが易感染性であると言うことなのです。
このように院内では、あまり病原性の高くないと考えられる菌にも感染する確率が高まり、感染した場合を院内感染と言います。ただし、結核菌*6のように、市中感染を起こす菌でも院内感染の原因となることがあります。
イラスト:健康で病院内にいる人達には悪さをしない菌も、知らず知らずに接すると易感染性の人達には危険な菌となりうる
さて、ちょっと考えてみると、病院には患者さん、即ち易感染性の人達だけがいる訳ではないことに気が付きます。
治療に当たるお医者さん、そして看護師さんやその他病院スタッフ、またお見舞いに訪れる多くの来院者もみなさん健康で、十分に体力のある人達ばかりです、決して易感染性の人ではないのです。

言い換えると、院内感染の原因菌と言われる菌は、このような人達には悪さをしないので、たとえこれらの菌を持っていたとしても何の症状も示しません(定着;ていちゃく*8)。それとは知らずに患者、易感染性の人と接することになります。その結果、意図せずに、菌を周囲に広げてしまったり、院内で感染を起こしてしまうことがあります。

ところで、厄介なことに、これら感染を起こす多くの菌がMRSA、VREと言った抗菌薬*9が効きにくくなっている菌であると言う現実があります。

抗菌薬が効けば、たとえ易感染性の人であっても適切な治療が可能ですが、耐性菌に感染してしまうと治療が大変面倒になり、場合によっては、不幸な結果に到ることもあります。

病院へは、病気になったから行くのであって、治療を受ける病院で病気になること、院内感染など、普通は思いもよりません。

でも、残念ながら現代医療の技術をもってしても院内感染は起こることがあり、更に、お見舞いなどで病院に出入りする私たちでさえも、感染源になりうるということを、考える必要があります。