第12回 とびひ

「先生、またなっちゃったみたいです。」お母さんが、幼稚園児のお子さんを連れて受診されました。見ると、耳や鼻の穴、口の近くに、黄色いかさぶたをもったじくじくした赤い斑点が…。とびひ(伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん))です。

つい、二か月ほど前にも、とびひになった子供です。前回は、「湿疹だと思ってステロイドを含む軟膏をつけていたが一向に良くならない」ということで来院されました。その時は、両腕、両足にたくさんの皮疹ができていました。

とびひは、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌という細菌によって起こる、子供に多い皮膚の細菌感染症です。近頃は、あまり抗生物質の効かない細菌によって起こることも多いので、この子の場合にも、皮膚から出てくるじくじくした黄色い液(浸出液)をとり、どんな性質の細菌が起こしているのか調べておきました。すると、日本で最も良く使われるゲンタマイシン軟膏や、小児ののどや鼻の感染症に第一選択薬として良く使われるクラリスロマイシンが効かない菌、耐性菌が検出されました。

もともと、私の勤めている医院のある地区では、数年前からそのような性質を持つ菌によるとびひの子供たちが多かったので、処方した薬も、上記のような薬は避けておきました。細菌培養や感受性検査(どんな抗生物質が効くか調べる検査)の結果が出る5日後には、かなり良くなっているはずです。現に、感受性検査の結果では、処方した薬は効くことになっています。しかし、この子供の場合、どうも治りが悪く、最初に薬をつけたところは良くなってきているのに、他の場所にまた新しい皮疹ができて来ました。

もしやと思って、お母さんに「かぜの薬を飲んでいるとのことですが、抗生物質も飲んでいませんか?」と聞くと、「耳鼻科から抗生物質がでています。」とおっしゃるではありませんか。お薬手帳を拝見すると、クラリスロマイシンが処方されていました。(ああ、失敗した。最初によくよく聞いておけばよかった!!)

子供がもともと耐性菌を皮膚に持っていると、その菌に効かない抗生物質を投与された場合、皮膚にとびひを起こす可能性があります。おそらくクラリスロマイシンを服用したことにより、クラリスロマイシンが効く菌は殺されてしまって、効かない耐性菌がはびこって、とびひになったのでしょう。

お母さんにこのことをお伝えし、検査結果のコピーを渡して、耳鼻科の先生に抗生物質を替えるようにお願いしていただきました。感受性検査結果を元に、内服の抗生物質を替えたところ、あれほどあったとびひは、きれいに無くなりました。

ついこの間、そのようなことになったのに、なぜまた???
「また、抗生物質を飲みませんでしたか?」と聞くと、やはり今度もそうでした。
また鼻風邪をひいて同じ耳鼻科に行ったが、『もう、あれから2カ月もたったから大丈夫でしょう。』と、またクラリスロマイシンが処方された、というのです。今度もまた、別の抗生物質に変更していただいたところ速やかに治りました。

耐性菌は、菌としては弱いことが多いので、抗生物質を飲み続けたりしなければ、本来健康な人では、耐性を持たない菌に駆逐されてそのうちにいなくなるものですが、2か月ではちょっと早かったのでしょう。この子の場合には幸い、たいした耐性はありませんでしたが、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)によるとびひも、この頃増加しています。5年くらい前には、とびひで来院する子供の3割程度に検出されたこともありました。同じMRSAでも、耐性の程度はさまざまですが、なかには「使える外用薬が無い!」というくらい広範囲の耐性を持つ菌のこともあり、そういう菌がコミュニティに増えていかないよう、抗生物質の適正使用を肝に銘じています。

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