第20回 熱が出てぶつぶつ

「熱が出て、湿疹もできてしまって、体中痒いんです…」との訴えで受診されたのは、30代前半のSさん。
確かに、顔から身体からぶつぶつと発疹が出て、痒くて掻き壊しています。直径1cmに満たない程度のうすいピンク色の発疹の中央部は、皮膚がはがれてじくじくしていたり、かさぶたになっていたりしています。
でも、この皮疹は、もしかして…??
「頭の中も痒くありませんか?」
「痒いです。もう寝ている間も痒くて掻き壊してしまって!!」
「ちょっと見せてくださいね。」と、髪の毛を掻きわけて地肌を診てみると…
ありました!身体中にでているのとそっくりの発疹が!
「これは水ぼうそうです!」
「ええっ?? 水ぼうそうですか??」
「はい。水ぼうそうに今まで罹ったことが無かったでしょう?」
「確かに…記憶にありません。」
とりあえずカチリという、水ぼうそうの皮疹に使う薬を塗りました。この薬は白くなめらかで、泥のような粘性があり、かゆみとほてりのある水ぼうそうの皮疹に塗ると、ひんやりとして痒みが楽になり、乾かしてくれるのです。とてもクラシックな薬で、私自身も昔、水ぼうそうになった時に、母に塗ってもらった記憶があります。
ただ、お顔を白い水玉模様にして帰すわけにもいかず、さすがに、お顔には後で自分で塗っていただくことにしました。
「会社には行かない方が、いいですよね。」
「そうですね。水ぼうそうは、伝染性の病気なので行けないですね。周りの方にうつしてしまいます。参考までに、学校保健法では、全ての発疹がかさぶたになって乾くまでは、当校不可となっていて、お休みしている間は出席停止の扱いになります。」
とお伝えしました。
抗ウイルス剤を一日三回飲んでいただいて、3日後、経過を見せに来て下さったSさん。
「まだ、会社いけませんかねえ。熱は下がったし、元気になったので行きたいんですが...。でも、まだまだ痒くて...」と手を見せて下さったら、新たな水疱が出ています。
「まだ行けませんね。この水疱が全部かさぶたにならないと、他の人にうつしてしまいますよ。必要なら、診断書を書きますから、上司の方か人事の方にご相談ください。」
「困ったなあ。」とSさん。伺うと、会社の同僚の方に、同じような年齢の方が多いようです。
子供の水ぼうそうは、比較的軽症ですむことも多く、国によっては、誰かが罹ると「Chiken Pox Party」などと称して、わざわざ子供たちを集めてうつしてもらうなどといったことをすると、聞いたことがあります。
しかし、成人が罹るとSさんのように重症化してしまうことが多いのです。従来、子供の罹るもの、とされてきた、水痘(水ぼうそう)、麻疹(はしか)、風疹(三日ばしか)も、若年成人の罹りうる病気と認識されてきました。最近も大学生の間で麻疹が流行したことなどをきっかけに、挙児希望のカップルや妊婦さんの麻疹や風疹の抗体価を積極的に調べるようになってきています。
たとえ、小さい時にワクチンを接種しても、その後その病原体に暴露する機会が少ないと、免疫が刺激されないので、いったん刺激された免疫能も落ちて行ってしまいます。自然に罹ったことが無い人が多い若い世代では、抗体価が低くなっている可能性が高く、病原体に対し無防備になってしまうのでしょう。
水ぼうそうの場合、小さい時に自然に感染して発症すると、いったんそれなりに抗体価が上がり、自分の免疫力で水痘ウイルスを抑え込むことができます。水痘ウイルスは、神経節という場所に押し込められてしまい、そこでいったん休眠状態になるようです。しかし、周囲に水痘ウイルスのいない状況、つまり水痘に対する免疫システムが刺激されない状況に長く置かれると、抗体価が下がります。睡眠不足やひどい風邪をひいたとき、癌などの悪性疾患にかかった時などには、身体全体の免疫力が落ちます。抗体価も低くて免疫力も落ちたとなると、もはや水痘ウイルスを抑え込めなくなり、今度は神経節にそってブツブツと水疱ができてくる帯状疱疹が起こってくるわけです。
人間に寄生しているウイルスの立場になってみれば、
「コノ宿主ハ具合ガ悪クナッテキタヨウダ。コノママデハ共倒レダ。外二出テ、モット長生キシソウナ元気ナ宿主ヲ探ソウ!」といったものでしょう。
どうしても仕事に復帰したいと思ったSさんは、上司の人(もちろん水痘罹患済み)と会社の個室で直談判したそうです。ところが、上司の方は、Sさんの水疱が多発している手を見たとたん、
「これじゃあ、お客さんと会えないでしょ。すっかり治るまで、出社するんじゃない!」
と仰ったそうで、結局発症してから10日もたって、やっと全ての発疹がかさぶたになりました。
「まいった。まいった。水ぼうそうでこんなになっちゃうなんて…。ここ数日は、家にいて仕事しないのがつらくてつらくて...。もう会社に行けますよね!」と、最終確認に来院され、もう出社しても大丈夫!という診断書を持って、無事に出社することができました。

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