第19回 やっかいなじんましん

Mさんは、半年前からじんましんがなかなか治らず、通院していた患者さんです。
じんましんは、たいてい食べたものによって引き金が引かれ、虫さされのような斑点や、それらが融合して地図状に拡大して、とても痒くなります。いったんじんましんが発症すると、元々の刺激とは別の刺激、例えば温度や圧迫などの機械的刺激にも反応して、じんましんが出現するようになることがあります。一般的には、抗ヒスタミン剤を内服して、人工的にじんましんが出ないようにして、身体に忘れてもらうという治療をします。たいていは、辛いものやショウガなど身体が火照りやすいものを食べたり、アルコールを飲んだり、サウナに行ったりなど、じんましんを誘発するような刺激を与えなければ、抗ヒスタミン剤を飲むことにより、速やかにおさまります。
しかし、治療開始までに時間がかかったり、治療が不十分で、じんましんを充分に抑えられない状態が長く続くと、慢性じんましんに移行してしまいます。慢性化してしまうと、先に挙げたような刺激によって容易にじんましんが起こるようになります。こうなると、身体が忘れてくれるまで時間がかかるので、抑え込める内服薬の組み合わせを早く見つけて、三か月以上様子を見ながら治療を続ける必要が出てきます。場合によっては、内服薬を減らすのが難しくて、年余に渡って抗ヒスタミン剤を飲み続ける必要がでてきます。
Mさんも、もともと受診するまでに数カ月かかっていたので、既に慢性じんましんの状態でした。
まず、比較的効果の高い第二世代抗ヒスタミン剤を一剤服用していただいて…全然ダメ
第二世代に加えて第一世代も併用して
「先生!まだ出るよ!」…これもダメ
数種類の抗ヒスタミン剤をいろいろ試してみて
「先生!まだ出るよ!」…似たり寄ったりで効果なし
アレルギーを抑える抗ヒスタミン剤は、ヒスタミンの受容体のタイプ1を阻害するのですが、これだけでは不十分なのかもしれないとヒスタミン受容体タイプ2に対する薬(通常はH2ブロッカーといって胃酸を抑える薬です。ガスター○Rが代表例。)も加えてみたらどうだろう
「先生!まだ出てるよ!」…効果なし
ステロイドの内服薬を、それなりの用量で飲んでいただいて
「先生!まだ出てるよ!」…効果なし
これもだめ、あれもだめ、でこちらは結構落ち込んでいるのですが、診察室で私の顔をみると、Mさんは明るく元気に、「まだ出てるよ!」と報告して下さるので、ちょっと救われました。でも、一方で申し訳なくて…
当院にいらしていただいている皮膚科の専門医の先生方にも時々診ていただきましたが、これといった解決策が見つからず、みんなで頭をひねっておりました。
また、採血をして、食物や環境にある何らかのものに反応しているかどうかも検査してみましたが、いまひとつ原因となる物質もわかりません。
Mさんも、食事に気をつけたり、アルコールを我慢してみたりと、いろいろと工夫して下さいましたが、どうも良く抑えきれません。ところが、ある日、何の拍子か、慢性感染巣がある場合、細菌に対するアレルギー反応としてじんましんがでることがある、ということを思い出しました。確かに以前、ヘリコバクター・ピロリ菌を除菌して、じんましんが良くなった患者さんもありました。
「Mさん、もしかして歯とか鼻とか、悪くありませんか?」
「えっ?歯?悪いよ。この間からずっと膿みたいのが出てて、もういい加減、歯医者に行かなきゃだめかなあと思ってたの。」
何と!
お口の中を見せていただくと、確かに右の上の奥歯の歯茎に炎症があって、潰瘍があり、奥の方で良く見えませんでしたが、何やら穴も空いているようです。
「色々手を替え品を替えと治療してみましたが、これだけ抑えるのに難渋するじんましんも珍しいです。虫歯の菌にアレルギーを起こしているのかもしれないので、抗生剤を飲んでみましょう。まず、3日だけ飲んでみてください。」
と、週末にかけて3日間、口腔内に多い嫌気性菌にも効く抗生物質を服用していただきました。すると…
「先生!出なくなったよ!」
Mさんがニコニコ顔で、月曜日に報告して下さいました!何だか、あっけない感じ…。でも、良かった!
「抑え込むまで、こんなに時間がかかって、すみませんでした。やはり、ばい菌に対するアレルギー反応だったようですね。」
「もう歯茎から膿が出なくなったから、大丈夫だね!歯医者さんにも行かなくていいよね!」と、Mさん。
…よっぽど歯医者さんが嫌いなのね…。でもダメ!!
「いやいや、歯医者さんにはいかなくてはいけません。抗生物質をずっと飲むわけにもいかないし。歯を治さないと、またじんましんになりますよ!そもそも、膿が出ているのに、歯医者さんに行かなかったから、こんなことになったんじゃないのかなあ...。」
「そうかあ、やっぱり、行かなきゃいけないかあ...。」
Mさんは、苦笑いをしながら、追加の抗生物質の処方箋を受け取って帰られました。歯科治療も無事終了し、続けていた抗ヒスタミン剤も、どんどん減量していって、とうとう終了。
それでも、抗生物質を飲み始めて以来、あれだけしつこかったじんましんは、二度と出ることはありませんでした。
もう少し早く原因を見つけられたらなあ。Mさんを経験して以降、原因がはっきりしないじんましんの患者さんには、「歯は、悪くないですよね。」と伺い、お口の中を見せていただくようにしました。

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